「矯正中に噛み合わせが悪くなる」という話を耳にした方も多いでしょう。歯並びをよくするはずの矯正治療で噛み合わせに違和感が生じると、治療が失敗するのではないかと危惧してもおかしくはありません。
そこで、今回は矯正中に噛み合わせに違和感が生じる原因や対処法について解説します。
噛み合わせとは
矯正治療では、見た目の美しさはもちろんですが、機能的にも優れた正しい噛み合わせをめざします。理想的な噛み合わせと矯正治療が必要な噛み合わせの違いを理解しましょう。
矯正治療でめざす理想的な噛み合わせの条件
理想的な噛み合わせの条件は、以下のとおりです。
- 上下の前歯にある中心線がそろっている
- 無理なく口を閉じられる
- 噛み合わせた上下の歯にできたすき間が5mm以下である
- 上の前歯が下の前歯より2~3mmほど外側にある
- 上の前歯が最も大きく、下の前歯が最も小さい
- 歯並びに、すき間、重なり、ねじれ、傾きがない
- 奥歯が噛み合っている
- 上下の歯列がU字のアーチ状である
矯正治療が必要な歯並び・噛み合わせ
理想的な噛み合わせとは対照的に、歯並びや噛み合わせがよくない状態を不正咬合(ふせいこうごう)と呼びます。矯正治療の対象となる不正咬合には、以下の7種類があります。
<7種類の不正咬合について>
不正咬合の種類 | 特徴 | 原因 |
1.上顎前突(じょうがくぜんとつ) |
・いわゆる出っ歯のことを指す ・上顎前歯が前に傾斜しているタイプと上顎全体が突出しているタイプなどがある |
・遺伝 ・指しゃぶり ・舌を前に出す癖 など |
2.下顎前突(かがくぜんとつ) |
・反対咬合や受け口とも呼ばれる ・上顎の劣成長や下顎の過成長などの骨格の問題、もしくは歯の生え方の問題で起こる |
・遺伝 ・顎の発育に問題 ・舌癖 など |
3.空隙歯列(くうげきしれつ) |
・すきっ歯とも呼ばれる ・前歯や奥歯の一部だけ、もしくは全体にすき間がみられる場合がある |
・歯の本数が少ない ・歯と顎のバランスの悪さ など |
4.過蓋咬合(かがいこうごう) |
・噛み合わせが深く、上顎前歯が下顎前歯を覆い隠す状態 |
・上顎に対して下顎が後方に位置する など |
5.交叉咬合(こうさこうごう) |
・奥歯の噛み合わせが上下で逆になっている状態 |
・上下顎の大きさのバランスが悪い ・頬杖などの悪習癖 など |
6.叢生(そうせい) |
・歯が重なって生え歯列がガタガタになっている状態 ・八重歯も叢生の一種である |
・顎が小さく歯の並ぶスペース不足 ・指しゃぶりや舌癖 など |
7.開咬(かいこう) |
・奥歯を噛み合わせたときに前歯が噛み合わない状態 |
・指しゃぶりや舌癖 ・口呼吸 など |
噛み合わせが悪いことで起こる悪影響
噛み合わせが悪いと、見た目だけではなく、生活にも悪影響を及ぼします。例えば、以下の健康トラブルや生活への影響が生じることが考えられます。
- 虫歯や歯周病
- 顎関節症
- 頭痛、肩こりなどの全身症状
- 咀嚼機能の低下
- 発音の不明瞭化
- 口腔内の乾燥、口臭
それぞれ解説します。
虫歯や歯周病
噛み合わせが悪い方は歯並びにも問題があり、歯磨きが難しいことが多いです。歯が重なった部分やすき間が空いている部分が磨きにくく、プラークがたまることで虫歯や歯周病のリスクが高まります。
顎関節症
噛み合わせのバランスが崩れ、顎に負担がかかり「顎関節症(がくかんせつしょう)」を引き起こしやすくなります。
顎関節症の主な症状は、以下のとおりです。
- 顎関節に痛みや違和感がある
- 口の開閉時に音が鳴る
- 大きく口を開けられない
- 食事や話をしていると顎が疲れる
頭痛、肩こりなどの全身症状
噛み合わせがずれると、全身の筋肉のバランスが崩れ、骨や神経にも負担がかかります。これらの不具合から生じる悪影響は、口だけではなく、以下の全身症状となってあらわれます。
- 頭痛
- 肩こり
- 腰痛
- めまい
- 耳鳴り
- 手足のしびれ など
咀嚼機能の低下
噛み合わせが悪いと、しっかり噛めずに嚥下(えんげ)機能が低下します。そのまま飲み込むと消化が困難となり、胃腸に負担がかかります。
発音の不明瞭化
歯のすき間から空気が漏れ、発音が不明瞭となります。特に、サ行、タ行、ナ行、ラ行は影響を受けやすい音です。
口腔内の乾燥、口臭
噛み合わせの悪さから、口を閉じにくく、口腔内が乾燥します。唾液の分泌が減ると口臭が強くなったり、細菌が活発化することにより虫歯や歯周病の原因になったりします。
矯正中に噛み合わせに違和感が生じることはあるのか?
矯正中に、噛み合わせに違和感が生じることは十分考えられるでしょう。
矯正中は、装置によって歯を動かして治療を進めていくため、一時的に噛み合わせに違和感のある箇所が生まれます。例えば、片側しか噛み合わない場合や、歯が浮いたように感じる場合などが挙げられます。これらの症状は一時的なものであり、治療が進むにつれて解消していくことが多いです。違和感が長期間に及ぶ場合や生活に支障をきたす場合は、歯科医師に相談しましょう。
矯正中に噛み合わせに違和感が生じる原因
歯を動かす治療である矯正では、違和感が生じる期間がどうしても出てきます。以下の原因を理解していれば、慌てることなく治療を進められるでしょう。
-
歯が移動しているから
- 奥歯が沈み込んでいるから
以下、それぞれ解説します。
歯が移動しているから
矯正治療によって歯が動いている最中は、噛み合わせに違和感を覚えることが多くあります。
しかし、しっかり治療が進んでいる証拠でもあるため、心配する必要はありません。いつまでも違和感が解消されない、痛みがあるといった場合は、歯科医師に相談しましょう。
奥歯が沈み込んでいるから
マウスピース矯正で起こりやすいのが、奥歯の沈み込みによって生じる違和感です。マウスピースの厚みの分、奥歯が歯茎方向に沈み込む現象が起こる場合があります。この沈み込みは、歯ぎしりや食いしばりがある方に多くみられ、奥歯が浮いて感じるなどの違和感が生じる原因となります。
矯正中に噛み合わせに違和感が生じたときは
矯正中に生じた噛み合わせの違和感は、個人差はありますが3日~1週間ほどで治まることが多いため、様子を見てよいでしょう。特に、治療を始めた直後、装置を新しくした直後、調整をした直後は、歯が動きやすいことから違和感が生じやすいです。歯並びがよくなるにつれて、噛み合わせの不具合も解消されていきます。
治療が進んでも改善されない場合は、次回の通院日を待たず、歯科医院に連絡しましょう。
矯正中に気を付けたい噛み合わせ以外のトラブル
矯正は長期間にわたる治療であるため、噛み合わせ以外にも以下のトラブルが発生することがあります。
- 虫歯や歯周病
- 顎の痛み
- 装置の破損
- 後戻り
それぞれ解説します。
虫歯や歯周病
ワイヤー矯正で装置を歯に装着した状態では、歯が磨きにくく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。虫歯や歯周病が重症化すると、矯正を中断して治療をする場合もあります。
また、虫歯によって歯の形態が大きく変わるほどの被せ物や詰め物をした場合、装置が合わなくなり、作り直さなければなりません。結果的に治療期間が延びるため注意しましょう。
顎の痛み
噛み合わせの変化で、顎が疲れる場合やだるく感じる場合があります。
ただし、顎に痛みがある、口が大きく開けられないといった症状は、顎関節に過度な負担がかかっている恐れがあるため、はやめに歯科医院を受診しましょう。
装置の破損
ワイヤー矯正の装置が外れた、マウスピースが破損したなどのトラブルには注意しましょう。この状態では、十分な矯正効果が得られません。壊れた部位や状態によっては次回の通院時まで様子を見ることもあるため、まずは歯科医院に連絡し、指示をあおぐことが大切です。
後戻り
矯正中のトラブルのひとつに、歯並びが元に戻ろうとする「後戻り(あともどり)」があります。矯正中に起こる後戻りは、装着時間などを自己管理する必要があるマウスピース矯正に多い傾向です。
指示された時間装着しなかった、しばらくの間外していたことが原因で後戻りは起こります。治療期間が延びることにもつながるため、歯科医師の指示に従い、治療を進めましょう。
まとめ
矯正中の噛み合わせに違和感が生じることは少なくありません。
ただし、治療に問題がある場合も考えられるため、自己判断せずに歯科医師に相談しましょう。
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