インプラント治療は、土台となる金属の人工歯根を顎の骨に埋め込み、人工歯根に人工歯を取り付けることで歯を補う歯科治療です。歯を失っても機能を回復できることが最大の特徴です。
しかし、骨に埋め込む人工歯根には金属を使用しているため「金属アレルギーでも治療を受けられるのかな」と心配に思う方もいるのではないでしょうか。
今回は、金属アレルギーがある方でもインプラント治療はできるのか徹底解説します。
インプラントとは?
インプラント治療とは、歯を失った顎の骨に人工歯根を埋め込み、その上に人工歯を取り付けることで歯の再建を行う歯科治療です。
本来、インプラントとは体内に埋め込む医療機器や材料の総称で、心臓のペースメーカーや人工関節、美容目的で体内に埋め込むシリコン材料なども、広義ではインプラントに分類されます。最近では、歯科分野のインプラント治療が広く知られるようになったため、単に「インプラント」というと歯科治療のことを指す場合が多いです。
差し歯との違い
歯を再建する治療法として、差し歯治療があります。差し歯治療は、顎の骨に残っている歯根に人工の歯を取り付ける方法です。そのため、わずかでも歯根が残っていないと差し歯治療は行えません。インプラントは、歯根まで完全に失った状態の顎の骨に人工歯根を埋め込むため、差し歯治療ができない場合でも治療をすることが可能です。
歯根が少しでも残っていれば差し歯治療、歯を完全に失った場合はインプラント治療が適応になります。
インプラントの構造と素材
歯科治療で使用されるインプラントは、下記の構造・素材で構成されています。
インプラント体(人工歯根)
顎の骨に埋め込まれる部分です。
チタンまたはチタン合金が使用され、大きさは直径3〜5mm、長さは6〜18mmです。
アバットメント(支台部)
インプラント体の上に取り付けられる部分です。
チタンやチタン合金、ジルコニアなどが使用されます。
上部構造(人工歯)
アバットメントに取り付ける人工歯です。
レジン(プラスチック)やセラミック(陶器)、セラミックとレジンを混ぜたハイブリッドセラミック、金合金などが使用されます。
金属アレルギーとは
インプラント治療の特徴を上述しましたが、金属アレルギーとの関連性が気になった方もいるでしょう。
金属アレルギーとは、金属への接触によって生じるアレルギー性の接触皮膚炎です。多くの場合、ピアスや指輪、ネックレスなどの金属製品が接触する部分に炎症やかゆみ、かぶれを引き起こします。
インプラント治療においては、口内に埋め込んだ金属製の土台が長年の使用によって溶け出します。溶け出した金属を慢性的に摂取することによって、全身にかゆみや腫れなどがあらわれる「全身性金属アレルギー」を発症する場合があるのです。
全身性金属アレルギーを発症することは非常にまれですが、発症した場合はすぐに治療を中止し、アレルギー症状を抑えなければいけません。インプラント治療で見られる金属アレルギーの症状については、後述しますので参考にしてください。
金属アレルギーでもインプラント治療を受けられる?
金属アレルギーがある方でもインプラント治療は可能なのか、疑問に思う方もいるでしょう。結論からお伝えすると、金属アレルギーがある方でも多くの場合、インプラント治療を実施することが可能です。インプラントで使用される金属は、アレルギー反応を起こしにくいものだからです。
一般的に、以下の6種類の金属は、金属アレルギーを起こす頻度が高いとされています。
- ニッケル
- コバルト
- クロム
- 水銀
- 金
- パラジウム
インプラント治療の人工歯根で使用する金属は、チタンです。チタンには、空気に触れるとすぐに酸化し、表面に強固な酸化被膜を作る性質があるため、汗やリンパ液に触れても溶け出しにくく、金属アレルギーを起こしにくいといえるでしょう。
チタンは、人工関節など全身の治療においてもよく用いられる金属で、生体親和性が高いとされています。金属の土台に被せる人工歯にも非金属製の物質を使用するため、金属アレルギーを発症する可能性は限りなく低いといえるでしょう。
しかし、すべての方が金属アレルギーを発症しないわけではありません。チタンは生体親和性が非常に高いため、インプラント治療の際には100%純チタンで作られた人工歯根を使用するのが理想的ですが、実際に100%純チタンのインプラントはほとんどないのです。
多くの場合、チタンにほかの金属を少量配合したチタン合金を使用します。そのため、チタン以外の金属にアレルギー反応を起こす可能性があるのです。
インプラント治療後に金属アレルギーの症状が出る可能性は?
インプラント治療後に金属アレルギーの症状が出る可能性は、残念ながらゼロではありません。先述したように、インプラント体にはチタン以外の金属が少量含まれるため、チタン以外の金属に反応してアレルギー症状が出る可能性はあります。
アレルギー症状が治療をしている間に出るか、治療後に出るかは個人差が大きいです。症状の重症度も個人差が大きいので、インプラント治療中、治療後ともに注意が必要です。
インプラント治療後に金属アレルギーの症状が出たら
インプラント治療後に金属アレルギーの症状が出たらどうすればよいのでしょうか。
まずは、速やかに治療を受けた歯科医院を受診することが重要です。金属アレルギーの症状は、原因となる物質を体内から除去しなければ改善されることはありません。インプラントを除去することになるかもしれませんが、差し歯やブリッジ、入れ歯治療などで歯の再建や機能の回復を行うことは十分可能です。
「せっかくインプラントを入れたのにもったいない」と思うかもしれませんが、重篤なアレルギー症状があらわれる前に、なるべく早く対応してもらいましょう。
インプラント治療によって金属アレルギーを発症した際にあらわれる症状を以下にまとめてみました。以下の症状があらわれた場合は、すぐに歯科医院を受診してください。
口腔扁平苔癬
口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)は、舌や唇、頬、歯茎などの粘膜に白いレース状の腫れが見られる、炎症を起こした粘膜が赤く腫れるなどの症状があらわれる疾患です。自覚症状として、痛みや不快感、味覚異常などを伴うことがあります。
掌蹠膿疱症
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は、膿疱(のうほう)という膿が溜まった水疱が、手のひらや足の裏にできる皮膚の病気です。膿疱は出現しては消えることを周期的に繰り返すため、最初は掌蹠膿疱症だと気づかない方も多いです。手や足のほか、膝やすねにも見られることがあります。
金属アレルギーになる可能性を下げる方法
最後に、インプラント治療において金属アレルギーをできるだけ避けるための方法をご紹介します。ご紹介する方法を行えば金属アレルギーを発症しないわけではありませんが、リスクを低減することができるでしょう。
金属アレルギーがある方は医師に申告する
金属アレルギーがある方は、治療が始まる前に歯科医師に申告することが大切です。
過去に金属アレルギーを起こしたことがある方は、インプラント治療においても症状が出現する場合が多いです。あらかじめ伝えることで、チタンへの金属アレルギーがあるかパッチテストで調べる、アレルギー反応が出にくいインプラントにする、ほかの治療法を検討するなど、適切な対応をしてもらえるでしょう。
また、治療を始める前に金属アレルギーの既往歴を把握していれば、万が一治療中にアレルギー反応が出た場合も柔軟に対応できます。
事前にパッチテストを行う
金属アレルギーと診断されたことがない方でも「金属アレルギーを発症したらどうしよう」と不安に思う場合もあるでしょう。このような場合は、事前にパッチテストでアレルギー反応が出るか調べることが有効です。
パッチテストとは、試薬のついたテープを腕や背中に貼り、48時間後に皮膚の状態を確認するものです。簡単にアレルギー反応があるかを判断できるため、医療機関では頻繁に行われています。「これまで金属アレルギーと診断されたことはないけれど不安がある」という方は、事前にパッチテストを受けるとよいでしょう。
まとめ
今回は、金属アレルギーがある方でもインプラント治療を受けることができるのか解説しました。
インプラント治療では、歯に埋め込む人工歯根に金属を使用しています。人工歯根の大部分はチタンで作られているため、アレルギー反応を起こす心配はほとんどありません。
しかし、チタンとともに混合されている、ごく微量のほかの金属に反応して、アレルギーを起こすことがあります。そのため、金属アレルギーがある方でも100%安心して治療を受けられるとはいえないのが現状です。
万が一、インプラント治療によって金属アレルギーを発症した場合は、速やかに歯科医院を受診して治療を受けてください。アレルギーは重篤な全身症状を引き起こすこともあるため、なるべく早く対応することが重要です。
「インプラント治療をしたいけど金属アレルギーが心配」という方は、一度歯科医院を受診し歯科医師に相談しましょう。
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